株主提案・質問等に対する対応

1 株主提案権

株主総会の準備段階において、株主から、一定の事項を株主総会の議題とすることを求められたり(議題提案権。会社法303条)、会社提案とは異なる提案が提出されたり(議案提案権。会社法304条。なお、総会当日における議案の提出は、修正動議と呼ばれています。)、株主提案の要領を招集通知に記載することを求められたり(議案の通知請求権。会社法305条)することがあります。

これらはまとめて株主提案権と呼ばれています。

以下、議題提案権、議案提案権(修正動議)、議案の通知請求権について順番にご説明します。

2 議題提案権

議題提案権の行使の適法性を検討する際のポイントは以下のとおりです。
 なお、定款で要件が緩和されている場合は定款の定めによることになります。

(1)公開会社である取締役会設置会社の場合

① 提案した株主が、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上を6ヵ月前から引き続き有しているか(会社法303条2項)

② 株主総会の日の8週間前までに提案しているか(会社法303条2項)

③ 上場企業の場合は、株主総会の日の8週間前までに振替法上の個別株主通知をしているか(なお、②と③の先後関係は問われません。)

(2)公開会社でない取締役会設置会社の場合

提案した株主が、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上を有しているか(会社法303条2項及び3項)

(3)取締役会非設置会社の場合

取締役会非設置会社の場合には、株主であれば、総会当日でも議題の提案ができます(会社法303条1項)。

3 議案提案権

株主は、株主総会の議題に関して、独自の議案を提出することができます。議案提案権の行使の適法性を検討する際のポイントは以下のとおりです。なお、定款で要件が緩和されている場合は定款の定めによることになります。

①当該議案が、法令又は定款に違反していないか(会社法304条)

②実質的に同一の議案について、株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過しているか(会社法304条)

③当該議案の内容が招集通知及び株主総会参考書類に記載された議題から一般的に予見できる範囲か

修正動議が適法である限り、当該動議を審議の対象としなければなりません。議長は、株主の発言が修正動議の提出にあたるのか、意見表明にすぎないのかをまず確認することになります。

会場において、動議の適法性について議長が即時に判断することが難しい場合もあります。問題なく動議を否決できる状況であれば、審議の対象として取り上げて否決することが一般的です。

4 議案の通知請求権

前述のとおり株主提案権は総会当日に行使することもできるのですが、他の株主に提案内容を知らしめて、広く賛同を募るために、株主提案権を実効あるものとするために、一定の株主には、事前に株主提案の内容を招集通知に記載するよう求める権利も認められています。

議案の通知請求権の行使の適法性を検討する際のポイントは以下のとおりです。

なお、定款で要件が緩和されている場合は定款の定めによることになります。

(1)公開会社である取締役会設置会社の場合

① 請求した株主が、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上を6ヵ月前から引き続き有しているか(305条1項但書)

② 株主総会の日の8週間前までに請求がされているか(会社法305条1項)

③ 上場企業の場合は、株主総会の日の8週間前までに振替法上の個別株主通知をしているか(なお、②と③の先後関係は問われません。)

④ 当該議案が、法令又は定款に違反していないか(会社法305条4項)

⑤ 実質的に同一の議案について、株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過しているか(会社法305条4項)

(2)公開会社でない取締役会設置会社の場合

① 請求した株主が、総株主の議決権の100分の1以上または300個以上を有しているか(305条1項但書及び305条2項)

② 株主総会の日の8週間前までに請求がされているか(会社法305条1項)

③ 当該議案が、法令又は定款に違反していないか(会社法305条4項)

④ 実質的に同一の議案について、株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過しているか(会社法305条4項)

(3)取締役会非設置会社の場合

① 株主総会の日の8週間前までに請求がされているか(会社法305条1項)

② 当該議案が、法令又は定款に違反していないか(会社法305条4項)

③ 実質的に同一の議案について、株主総会において総株主の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過しているか(会社法305条4項)

5 会社の対応

株主提案権の行使が適法といえる場合、提案された議題、議案は株主総会に上程しなければなりません。これに反した場合、招集手続及び決議方法の瑕疵にあたるとして株主総会決議取消訴訟(会社法831条1項1号)、過料(会社法976条19号、2号)の対象となる可能性があります。

なお、株主提案に関して、株主総会参考書類に記載すべき事項は以下の通りです。

① 株主提案である旨(会社法施行規則93条1項1号)

② 議案に対する取締役又は取締役会の意見(同2号)

④ 株主の提案理由(同3号)

⑤ 役員および会計監査人の選任に関する議案については、その候補者に関する事項(同4号)

⑥ 全部取得条項付種類株式の取得又は株式の併合に関する議案については、その理由、内容等(同5号)

また、会社提案と株主提案が相反する場合には、双方に賛成することにより無効票が多発するおそれがあることから、参考書類等に株主に向けた注意文言を記載することが望ましいといえます。

①事前の書面投票・電子投票によって株主総会の開催前に会社提案が可決するかどうか判明している場合と②議場における投票結果を合算しなければわからない場合のいずれになるかに応じて、総会の議事シナリオを用意しておく必要があります。

6 総会における質疑

取締役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければなりません(会社法314条本文)。ただし、以下の場合には、説明義務は生じません。

① 株主総会の目的である事項に関しないものである場合(会社法314条但書)

② 説明をすることにより株主共同の利益を著しく害するものである場合(会社法314条但書)

③ 説明をするために調査をすることが必要である場合(会社法施行規則71条1号)

④ 説明をすることにより株式会社その他の者の権利を侵害する場合(同2号)

⑤ 株主が実質的に同一の事項について繰り返し説明を求める場合(同3号)

⑥ 正当な理由がある場合(同4号)

説明義務を果たしたかどうかは、合理的な平均的株主を基準に判断されます。

決議事項に関する説明義務については、決議に際して株主が賛否を合理的に判断するために必要な程度の説明をしたか否かで判断され、株主総会参考書類の記載事項を補足する程度の説明をすることが目安となります。

報告事項に関する説明義務については、報告事項を理解するのに必要な程度の説明をしたか否かで判断され、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び注記表を補足する程度の説明をすることが目安となります。

いずれも目安であり、説明義務の具体的な範囲は、決議事項の内容、質問の関連性の程度、実際に提供された説明の内容、質問株主が保有している資料等も考慮して判断されます。

説明義務に違反した場合には、決議方法の瑕疵にあたるとして株主総会決議取消訴訟(会社法831条1項1号)、過料(会社法976条9号)の対象となる可能性があります。

株主の質問に対して適切に回答するために、事前に想定問答集を用意しておくことが一般的です。

なお、株主提案そのものに関する説明義務はありませんが、株主提案を審議するうえで必要な会社情報については説明義務が生じることがありますので、事前準備が必要となります。

7 事前質問状が送付されてきたら

株主から、質問状、質問書等という形で、株主総会の場で説明を求める事項を事前に通知されることがあります。

株主総会の日より相当の期間前に質問状の送付を受けた場合には、(そこに記載された質問が、説明義務(会社法314条本文)のある質問であることが前提ですが、)株主総会当日において、「説明するために調査が必要である」という理由により説明を拒否することができなくなりますので(会社法施行規則71条1号イ)、事前に十分な回答を準備しておく必要があります。

なお、質問状を受領していても、株主総会で現実に質問がされない限りは、総会での説明義務は生じませんが、円滑に議事進行するため、総会の場で、質問されることを待つことなく、質問内容に対する回答を行うことも考えられます。

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