株式譲受人による、株式譲渡人の会社に対する株券発行請求権の債権者代位(東京地裁平成26年3月31日判決)

【事案の概要】

本件は、原告が、被告(株券発行会社)に対し、Bから贈与を受けた被告株式197株(以下「本件株式」といいます)について、債権者代位権に基づき、原告がBに対して有する株券引渡請求権を保全するため、Bが被告に対して有する株券発行請求権の代位行使により、株券の発行を求めた事例です。

1  原告は、平成20年8月20日に死亡したC(以下「亡C」という。)の子であり、Bは亡Cの妻である。平成20年8月20日当時、亡Cが228株、Bが46株の本件株式を有しており、原告は本件株式を有していなかった。

2  被告は、自動車整備及び不動産関連業務を目的とする株式会社であり、発行済株式総数は300株である。

被告の定款には、〈1〉株券を発行する旨、〈2〉株式を譲渡するには取締役会の承認を受けなければならない旨の定めがある。ただし、被告は、会社法215条4項により、現実には株券を発行していなかった。

3  C死亡後、Bと原告は以下の条項を含む覚書を締結した。

〈1〉Bは、被告の事業運営が今後原告によって行われるように取りはからうことに合意する。

〈2〉前項の目的を達するために、Bは、被告の発行済株式総数の過半数を相続し、これに原所持分を加え原告に贈与する(以下「本件贈与」という)。

4  B及び原告を含む亡Cの相続人間における遺産分割申立事件(東京家庭裁判所立川支部平成23年(家)第1274号)においては、平成25年2月26日、亡Cの遺産である本件株式228株のうち、114株をBが、38株を原告がそれぞれ取得する旨の審判がなされ、同年8月9日、同審判は確定した。

5  被告は、株券発行会社であるところ、Bから原告に対する本件贈与は、株券の発行がないままになされたものであり、これまでにBが被告に対して株券発行請求をしたことはない。

【判旨の概要】

1  前記認定事実によれば、Bは、もともと有していた本件株式46株に加え、亡Cの遺産から本件株式114株を取得したことによって、合計160株の本件株式を有するに至ったことが認められ、これによれば、Bは被告に対して本件株式160株の株券発行請求権を有していることが認められる。

2  前記認定事実によれば、Bは、原告に対し、本件株式197株を贈与したことが認められるから、原告はBに対して本件贈与に基づいて本件株式197株の株券引渡請求権を有することが認められる。

3  ところで、被告は株券発行会社であるから、株券の発行がないままになされた本件贈与については、Bと原告との間では有効であると認められるものの、その効力を被告に対抗することはできない(会社法128条2項)。

もっとも、本件贈与に基づいて原告に株券を引き渡すべき義務を負っているBが被告に対する株券発行請求権の行使を怠り、その懈怠によって原告がいつまでも株券の交付を受けることができないのは、原告の権利保護に欠けるものである。他方、被告は、Bに対して本件株式160株の株券発行義務を負っているのであり、本件贈与によってBから本件株式197株を譲り受けたと認められる原告に対して本件株式160株の株券を発行したとしても、それによって何らかの不利益を受けるとは考えがたい。加えて、原告が債権者代位権によって代位行使しようとする権利は、あくまでもBの被告に対する株券発行請求権であって、原告が被告に自己の株主権に基づいて株券発行請求権を行使しているわけではないから、原告による上記代位権の行使が会社法128条2項に抵触するものとはいえない。

4  以上によれば、原告は、債権者代位権に基づき、本件贈与に基づく株券引渡請求権を保全するため、Bの被告に対する本件株式160株の株券発行請求権を代位行使することができ、これに基づいて、本件株式160株の株券を被告から原告に直接発行するよう求めることができるというべきである。

【関係条文】

会社法128条
(株券発行会社の株式の譲渡)

第百二十八条 株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。

2 株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。

【論点】

株券交付なく行われた株式の贈与に基づく株券交付請求権を被保全権利とする株券発行請求権代位行使の可否

【解説】

売買契約は、当事者の合意をもって成立するのが、民法の原則です(民法555条)。

しかし、株券発行会社の株式は、当該株券を交付しなければ、その効力を生じません(会社条128条1項)。また、株券の発行前に行った譲渡は、株券発行会社に対してその効力を生じません(同条2項。そのため、会社は、株券発行前の譲渡が行われた場合、かかる譲渡が存在しないことを前提として取り扱うことになります )。

そのため、株券発行会社の株式の譲渡を行う場合、譲受人は、株式の譲渡合意書の締結に加え、譲渡人から株券の引渡しを受ける必要があります。ところが、会社は株主から請求がある時までは、株券を発行しないことができるため(会社法215条4項)、実際、株券発行会社であっても、株券を発行していない会社が数多く存在します。

本裁判例は、株券の発行前に、株券の贈与を受けた場合において、譲受人(原告)が、譲渡人に代わって、譲渡人の会社(被告)に対する株券発行請求権を債権者代位することを認め、会社(被告)から直接譲受人に対して株券を発行することを認めたものです。

株券の発行とは、会社が法定の形式を具備した文書を株主に交付することを言い、株主に交付したとき初めて当該文書が株券になると判示した最高裁昭和40年11月16日判決との関係では、譲受人(原告)は譲渡人(株主)の株券発行請求権を代位行使しているため、譲受人に交付すれば株主に交付したことになり、株券として成立するという整理と思われます。

同項の趣旨は会社の株券発行事務の渋滞を避ける目的に過ぎないことであるとして、会社が任意に譲渡の効力を認めることはできるとする有力説があります(江頭健司「株式会社法」231頁(有斐閣、第7版、2017年)。

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