株式投資型クラウドファンディング

 「インターネットを通じて、事業に可能性を感じてくれる人から薄く広く資金調達をしたい。」という企業家と「可能性を秘めた会社に上場前から投資して大きくキャピタルゲインを狙いたい。」という人をつないだり、「インターネットを通じて、事業に共感してくれる人から薄く広く資金調達をしたい。」というソーシャルベンチャーと「世の中のために頑張っているソーシャルベンチャーを応援したい。」という人をつなぐことができる仕組みを、金融庁が制度化しようとしています。
 現行の金融商品取引法の下では、 株式の募集の取扱いを業とするには第1種金融商品取引業(最低資本金5,000万円などの参入要件)の登録が必要です。そして、その第1種金融商品取引業者に関しても、非上場株式の募集の取扱いは、日本証券業協会の自主規制規則により、原則として禁止されています。
 このように、これまではオーソライズされた仲介者が存在しない状況で、ベンチャーと資金提供者の間には大きな壁があり、情報を得ることができるごく一部の限られた人がエンジェル・VCとして良くも悪くも買い手市場でベンチャーに投資するという環境が続いてきました。
 今回の金商法改正は、ベンチャーの資金調達環境を大きく変え、エコシステムを変革する可能性を秘めています。
 インターネットを通じた株式投資型クラウドファンディングによって、昔から存在する寄付型・対価型のクラウドファンディングとは異なり、「少額のリスクマネーを直接非上場株式に投資して、大きなリターンを狙う」こと、「少額のリスクマネーを結集して多額の資金調達をすること」が可能となります。多数の方から共感を得やすいソーシャルベンチャーにとっても、不特定多数の人から株式引受けの形で応援してもらいやすくなり、一回きりの関係ではない、継続的な関係を築くことが可能となり、資金調達のための強力な手段となる可能性があります。ベンチャー側のガバナンスの観点からは、株式を引き受ける主体の株式保有割合は小さなものとなり、株主数が増大することになります。
 制度化・金商法改正に向けた議論の中では、以下のA)~D)について検討されている状況ですが、インターネットを通じて多数の人から資金調達するという特徴と、利用が広がるかどうかという観点からは、適切な情報提供をどのように担保するかが当然議論になるところで、発行体(会社)が負担すべき開示義務の内容、虚偽記載に対する制裁、仲介者(業者)のデューデリジェンスの体制・能力の確保、取引に関する仲介者の義務の内容が焦点となっています。
  • A) 発行総額要件(現在、発行総額1億円未満とすることを検討中)
  • B) 各投資者の投資額要件(現在、一人当たり投資額50万円以下とすることを検討中)
  • C) 仲介者の資格要件その他の義務の内容
  • D) 発行体に課される開示義務その他の義務の内容
 金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」が平成25年12月25日付でとりまとめた報告書では、仲介者として、主に第1種金融商品取引業者、第2種金融商品取引業者が想定されているように読めます。
 新制度は、①ハイリスクハイリターンの少額投資と②応援のための株式投資を視野に入れて議論されるべきと思いますが、特に②との関係では、コストが高ければ少額での利用は広がらないと考えられます。
 仲介者の役割を果たす企業の自由かつ公正な競争を促し、利用者にとって利用コストの低い制度とするためには、第1種金融商品取引業者、第2種金融商品取引業者に限らず、新規参入が容易な制度とする必要があります。 2013年秋の金融庁総務企画局の事務局説明資料では①と②の両方が制度の視野におさめられていましたが、上記報告書の内容は、前述のとおり仲介者として主に第1種金融商品取引業者、第2種金融商品取引業者を想定しているように読め、しかも、②には全く触れず、①についてのみ記載されています。
 クラウドファンディングの本質は、「口コミで大衆の力を結集して価値あるものを後押しする」というところにあると思いますが、上記報告書はクラウドファンディングの特質についても全く触れていません。このまま、①のみを視野に入れた、ただのインターネットを使った非上場株式の募集方法となってしまうのではないかという危惧があります。
 株式投資型クラウドファンディングが詐欺に用いられるのではないかと危惧する声もありますが、インターネット上で公開され、一定の募集期間を設定し、目標金額全額かゼロかという形で、口コミで多数の者に情報が広がっていくクラウドファンディングの性質と特徴を維持することは、クラウド(大衆)を騙し終えることは難しいと考えられることから、詐欺防止の観点でも有益であるように思われます。
 この点、クラウドファンディングの特徴である目標金額全額かゼロかという特徴を新制度に込みこむ場合には、会社法が定める打切発行との関係での整理も必要となる可能性があります。
 ワーキング・グループのメンバーを拝見すると、神田秀樹教授をはじめ錚々たるメンバーですが、インターネット、クラウドファンディングに知見の深いメンバーが不足しているのではないかと思われ、その点が残念です。報告書に関して各団体が提出している意見も同様に感じられました。名ばかりのクラウドファンディングでなく、大衆が判断するというクラウドファンディングの内実を保って制度化されることが有益であるように思えてなりません。
 新制度に関する今後の動向について、本コラムで続報を投稿したいと思っております。

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