株式と遺言

 社長亡き後、社長が所有していた株式をめぐって親族間で相続争いが発生し、相続問題と後継者争いが連動して、経営権をめぐる紛争に発展してしまうことがあります。このような紛争は、事前に①生前贈与、②売買、③遺言の方法により、後継者に対して株式が移転するようにしておくことで予防することができます。①生前贈与又は②売買の方法により生前に株式を後継者に対して移転する場合には、その後の後継者の意向次第で社長が早期退陣に追い込まれる可能性が否定できない等のデメリットがあり、そのため、③遺言の方法によることが多いのが実状です。
遺言書の記載例は下記のとおりです。

遺言書


 遺言者山田太郎は、遺言者が創立し、その発展に生涯をかけた山田株式会社の未来を考え、遺言者亡き後も同社のさらなる繁栄を念じ、次のとおり遺言する。



1 現在、遺言者が、代表取締役社長の地位にある山田株式会社の経営については、後継者を遺言者の山田三郎と定める。同人は遺言者を助けて同社の業績向上に寄与したばかりか、同社の従業員からも深く信頼されており、遺言者亡き後も、安心して経営を任せられるものと認め、後継者に指名した。
 山田一郎、山田二郎、海川花子においては、この決定を快諾し、山田三郎に協力して、山田株式会社の繁栄に努力することを希望する。
 その他の幹部社員も、山田三郎を助け、山田株式会社の繁栄に尽くしてくれるようお願いする。

2 遺言者が所有する山田株式会社の株式は、その全部を山田三郎に相続させる。他の子供達には、下記3のとおり別の財産で埋め合わせをし、できるだけ公平になるよう考えたので、受け入れて納得して欲しい。

3 (他の財産の相続について記載する)

4 遺言者は、この遺言の執行者として、山田株式会社の顧問弁護士である法律太郎を指定した。


平成26年5月5日
○○県○○市○○町○丁目○番地
遺言者 山田太郎 印

 以上のように全文を自筆すれば、有効な遺言書となります。代筆、パソコンで作成してプリントアウトしたものではいけません。「○月吉日」という書き方では遺言書が無効となりますので、必ず年月日を記載してください。書き損じた場合、訂正の方式に決まりがあります(削除する部分を2重線で消して押印し、欄外に「○行目削除○字 加入○字」と明記して署名する。民法968条2項)ので、短い遺言の場合は全部書き直す方が無難です。
 なお、自筆証書遺言の場合、紛失したり、隠されたり、盗まれたりすることもあり得ます。このようなリスクを回避したければ、公証役場において公証人に遺言の趣旨を口頭で伝え、公正証書として作成してもらう方法(公正証書遺言)もあります。この場合、原本が公証役場で保管されます。

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