使用人兼務取締役の退職金請求

使用人兼務取締役からの①従業員としての退職金請求、②従業員の地位確認・未払賃金請求、③労災保険の不支給処分取消請求等の場面で、「取締役の労働者性」が問題となり、「取締役」が労働者・従業員であると認められることがあります。

この点、裁判例では、「取締役の従業員性の判断基準については、会社の指揮命令の下で労務を提供していたかどうか、報酬の労働対価性、支払方法、公租公課の負担等の有無を総合して判断する」(東京地判平成24年12月14日判決)とされています。

労働契約法は、「労働者」を、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」(同法2条1項)と定義しています。ここで、「使用され」とは、①使用者の指揮命令下において労務を提供することを意味し、「賃金」とは、②労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものを意味します。

したがって、従業員性・労働者性が問題となった場合、会社とその者の関係の具体的事情に照らして、「指揮命令下における労務の提供」と「労務の対償としての金員の支払い」という二つの要件(使用従属性の要件)を充たすかどうかを検討していくことになります。

特に代表取締役が大株主であるオーナー会社において、「取締役」が、その就労の実態に基づき、労働者として認められることが多くなっています。裁判例において労働者性を判断する際に考慮要素とされている事情は以下のとおりです。

  • ・就業規則において取締役への就任が退職事由とされているか。
  • ・取締役に就任した際に退職手続がとられたか。
  • ・取締役に就任した際に退職金が支給されたか。
  • ・取締役に就任する前後で、業務内容・責任が変更されたか。
  • ・業務執行権限の認められる代表取締役(会社法363条1項1号)又は業務執行取締役(会社法363条1項2号)か。
  • ・定款等により特別に業務執行権限が与えられているか。
  • ・業務執行に関する意思決定や具体的な業務執行を行っているか。
  • ・指揮命令を受けて業務を遂行していたか。
  • ・指揮命令の性質が、労働者に対するものと評価される性質のものか、取締役間の序列に基づくものと評価される性質のものか。
  • ・勤務時間・勤務場所について管理・拘束されているか。
  • ・業務の内容が他の従業員のものと異なる性質のものか。
  • ・会計処理上、賃金か役員報酬か。
  • ・他の従業員と比べて高額か。
  • ・就業規則上の諸手当が支給されているか。
  • ・勤務時間・欠勤と関係なく支払われているか。
  • ・雇用保険に加入しているか。
  • ・労働と関係なく支払われているか。

労働法の世界では、実態がなによりも重要視されています。「取締役」が労働者と認定されることを予防するためには、実際にその者を取締役として処遇し、取締役にふさわしい任務を遂行してもらうことが重要です。

ページの上部へ