取締役の報酬の一方的減額
取締役の報酬は、定款に定めがない限り、株主総会の決議で定めます。(会社361条)。
ただ、株主総会における取締役の報酬に関する決議は、全取締役の報酬の総額または総額の最高限度額のみを定めれば足りますので、各取締役個人の具体的な報酬額の決定については、取締役会決議に委ねたり、さらに、取締役会から代表取締役に一任することが可能です。実務的には、株主総会で個々の取締役の報酬額を決めるのは煩雑であること、個々の取締役のプライバシーに配慮する観点から、このように決定することが通常です。
他方、いったん具体的に定められた報酬額の減額は、取締役個人の同意がない限り無効であり、会社に差額の支払い義務が認められることになります。なぜなら、具体的に定められた報酬額は、会社と取締役の間の委任契約の内容となり、その契約の内容を変更するには、契約当事者である会社と取締役の双方の合意が必要となるためです。
この例外として、役職が取締役の報酬決定の基準ないし基準の一つとされており、役職の変更に連動して当然に一定額の報酬が減額されている場合等のように、取締役にとって役職変更に伴う報酬の減額が予測可能なものであり、取締役就任の際に当該取締役の黙示の同意があったと推定できる程度の慣行があると言える場合には、報酬の減額に対する取締役個人の個別具体的な明示の同意がない場合であっても、報酬の減額が有効と認められる場合があります(福岡高裁平成16年12月21日判決・判タ1194号271頁、東京地裁平成2年4月20日判決・判タ765号223頁)。
しかしながら、上記のような慣行の存在を理由として減額が法的に有効であると判断されるハードルは極めて高いと言えます。したがって、確実に取締役の報酬を会社の判断で任期中に減額できるようにしておくためには、取締役との契約(役員任用契約)において、①任期中に役職の変更を行うことがあり得ること及び②役職毎の報酬基準(報酬レンジ)を明記しておくことが必要です。