監視監督義務違反を理由とする取締役・監査役の損害賠償責任

他の役職員の違法行為等を認識していた又は認識し得た取締役・監査役は、当該違法行為等に関与していなかった場合でも、監視監督義務違反を理由として会社又は第三者に対して損害賠償責任を負うことがあります。

裁判において、実際上争点となるのは、地位、役職、職責、在任期間、影響力、疑いを抱くべき事情に接していたか等の各役員ごとの事情と、発生した違法行為の性質、その発見阻止の難易度等の違法行為に関する事情に基づき、(1)当該役員が当該違法行為等を認識していた又は認識し得たと言えるかという点と、(2)阻止することができたと言えるか(義務違反と損害の間に因果関係が認められるか)という点です。

(1)に関して、以下のような違法行為について、「認識していたのに黙認して阻止しなかった」と事実認定されると、監視監督義務違反ありと判断されます。まずは認識の有無が問題となります。

  • ・無謀な投資、回収見込みのない貸付け
  • ・権限濫用、恣意的取引、恣意的行為
  • ・横領、着服、私的流用、私腹を肥やす行為
  • ・手続を経ない利益相反取引、競業取引、関連当事者取引
  • ・手続を経ない重要な財産の処分、譲受
  • ・手続を経ない多額の借財、連帯保証、手形の振出し
  • ・合理性のない利益提供
  • ・法令違反行為
  • ・善管注意義務違反

認識しながら黙認していたというケースではない場合には、「認識し得たのに認識せず阻止しなかった」かどうかが問題となります。ここでは、とりわけ「疑いを抱くべき事情に接していたかどうか」という個別具体的な事情が最重要視されています。 例えば、以下のような事情が認められ、疑いを抱くべき事情に接していたと認定される場合には、違法行為を認識し得たと判断され、監視監督義務違反あり(内部統制システム構築に関する助言勧告義務違反あり、代表取締役の解職決議の助言勧告義務違反あり)と判断されています。

  • ・役員の指示に反して従業員が違法行為を行っていたことがあるという情報を入手していたケース
  • ・過去に同種又は類似の態様の違法行為が繰り返されていたケース
  • ・必要な手続が省略される等のイレギュラーな対応がされている案件であることを把握していたケース

他方で、例えば、以下のような事情が認められ、疑いを抱くべき事情には接していないと認定される場合には、違法行為を認識し得なかったと判断され、監視監督義務違反は否定されることになります。

  • ・違法行為の実行者らによって違法行為が内密に行われていたこと
  • ・会計士が問題ない旨監査報告していたこと
  • ・専門部署が存在すること
  • ・決裁権限を有していなかったこと
  • ・違法行為が短期間に集中して行われたこと
  • ・違法行為の内容が金融の専門家でないと発見が困難であること
  • ・内部統制システムが一定程度整備されていたこと

(2)についても、個別事情(各役員の影響力、違法行為が巧妙な手段で行われていること等)に基づき、役員が職務を遂行したとしても違法行為を阻止することはできなかったと判断して責任を否定した事例もありますが(義務違反と損害の間に因果関係を否定)、最近の裁判例では、「経営について進言をしても功を奏する可能性はないと認定することはできない」と判示し、阻止することができた「可能性」があれば因果関係ありとして責任を問う傾向があります。個別事情次第ですが、不正行為の抑止に関する役員への期待、賠償責任保険や責任限定契約の普及を背景として、今後も因果関係を緩やかに認める傾向が続くと考えられます。

監視監督義務違反として損害賠償責任を負うことになるかどうかは、個別具体的な事情が決め手となります。事実関係を証明できる資料をできるだけ集めておいて頂くことが何よりも重要です。

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