自己株取得における財源規制違反と欠損填補責任

1.財源規制について

(1)自己株式の取得は、会社の資産を流出させることとなり会社の債権者を害することになるので、原則、会社は分配可能額を超える自己株式の取得をすることができません(財源規制、会社法461条)。

もっとも、株主保護の要請から株主が会社に対して株式の買い取り請求をできる場合等(会社の意思による自己株取得ではない場合等)では、原則、財源規制が課されていません(一部財源規制がかかるものがありますので、詳しくは以下の表をご覧いただけますと幸いです)。

(2)財源規制に違反した場合の自己株取得の効果については有効説・無効説の対立があります

財源規制に違反した場合、①金銭等の交付を受けた者、②財源規制に違反した自己株取得を行った業務執行者、③自己株式の取得が株主総会決議に基づいて行われた場合における当該株主総会において自己株式取得の議題を提案した取締役、④自己株取得を決定する取締役会において自己株式取得の議題を提案した取締役は、連帯して、会社が交付した金銭等の帳簿価格に相当する金銭を支払う義務を負います(462条1項)。

2.欠損填補責任について

分配可能額は、最終事業年度の計算書類の金額を基準として計算します。しかしながら、当該事業年度において多額の損失が生じている又は生じることが見込まれているにもかかわらず、最終事業年度の計算書類上の分配可能額に収まっているということで自己株式の取得が行われてしまうと、財源規制の趣旨である会社の債権者保護を貫徹することができません。

そのため、最終事業年度の計算書類上の分配可能額に収まっていて財源規制に違反しない場合でも、自己株取得を行った事業年度の計算書類において欠損が生じた場合には、自己株取得に関する職務を行った業務執行者は、職務について注意を怠らなかったことを証明しない限り、欠損額を会社に支払う義務を負います(事後の欠損填補責任。465条1項)。

会社法立法担当者は463条において、「株式会社が第461条第1項各号に掲げる行為により株主に対して交付した金銭等の帳簿価額の総額が当該行為が『その効力を生じた日』における分配可能額を超えることにつき善意の株主は、当該株主が交付を受けた金銭等について、前条第一項の金銭を支払った業務執行者及び同項各号に定める者からの求償の請求に応ずる義務を負わない。」と規定しており有効であるという立場ですが、商法以来の解釈(内容が法令に違反する決議は当然に無効である)に基づき、無効であるとする学説も存在し、争いがあります。この点につき判断した裁判例は本コラム執筆段階ではありません。

業務執行者の範囲については会社計算規則159条に規定されています。なお、取締役会において自己株取得に賛成した取締役は業務執行者となります(同条2号ハ)。

自己株式の取得ができる場合(会社法155条)
号数 取得方法 財源規制適用の有無 欠損填補責任の有無
1号 取得条項付き株式の取得 あり(170条5項) あり(465条1項5号)
2号 譲渡制限付き株式の買取人に会社がなる場合 あり(461条1項1号) あり(465条1項1号)
3号 株主との合意による有償取得 ※無償取得の場合は施行規則27条1号参照 あり(461条1項2号,同項3号) あり(465条1項2号,同項3号)
4号 取得請求権付き株式の取得請求 あり(166条1項但書) あり(465条1項4号)
5号 全部取得条項付種類株式の全部取得 あり(461条1項4号) あり(465条1項6号)
6号 相続人等売渡請求による買取 あり(461条1項5項) あり(465条1項7号)
7号 単元未満株の買取請求があった場合 なし なし
8号 所在不明株式の売却手続きによる場合 あり(461条1項6号) あり(465条1項8号)
9号 端株の売却手続きによる場合 あり(461条1項7号) あり(465条1項9号)
10号 事業の全部譲渡の際に譲渡会社から譲り受ける場合 なし なし
11号 合併の際に消滅会社から株式を承継する場合 なし なし
12号 吸収分割をする会社から承継する場合 なし なし
13号 法務省令(会社法施行規則27条)に定める場合 以下に記載
施行規則27条に定める場合
1号 無償取得の場合 なし なし
2号 剰余金の配当又は残余財産の分配として取得する場合 なし なし
3号 組織変更・合併等の対価として取得する場合 なし なし
4号 新株予約権の対価として取得する場合 なし なし
5号 株式買取請求に応じる場合 なし i なし
6号 合併の際に会社を除く消滅法人(会社を除く)から承継する場合 なし なし
7号 事業の全部譲渡の際に譲渡人(会社を除く)から譲り受ける場合 なし なし
8号 権利の実行に当たり目的を達成するために当該株式会社の株式を取得することが必要かつ不可欠である場合
※債務者が株式以外に見るべき財産を有しない場合において、債務者から代物弁済を受ける場合や、会社が自社株に強制執行をかける場合が典型例とされています。
なし なし

i 財源規制の適用はありませんが、
①116条第1項(全部取得条項付きで自己株式を取得する場合)
②182条の4第1項(株式併合においては端株が生じる場合)
による株式買取請求において分配可能額を超える金額を支払った場合、当該取得に関する職務を行った業務執行者には、会社に対し、分配可能額を超過する金額を支払う義務が生じる可能性があります(464条)。

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