種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会決議

 会社経営への意欲や経済的利益の獲得への関心といった株主の多様なニーズに応えるため、株式会社は、会社法108条1項各号に列挙された一定の事項について内容の異なる2つ以上の種類の株式(種類株式)を発行することができます。

種類株式発行会社の株主は、通常の株主総会のほか、同じ種類株式を保有する株主たちによって構成される種類株主総会の構成員となります。種類株主総会で決議することができる事項は、会社法に規定する事項(法定決議事項)と定款で定めた事項に限られています(会社法321条)。

種類株主総会の法定決議事項の一つとして、会社法322条は、以下の通り定めています。

第三百二十二条 種類株式発行会社が次に掲げる行為をする場合において、ある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(当該種類株主に係る株式の種類が二以上ある場合にあっては、当該二以上の株式の種類別に区分された種類株主を構成員とする各種類株主総会。以下この条において同じ。)の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

一 次に掲げる事項についての定款の変更(第百十一条第一項又は第二項に規定するものを除く。)
イ 株式の種類の追加
ロ 株式の内容の変更
ハ 発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加

一の二 第百七十九条の三第一項の承認

二 株式の併合又は株式の分割

三 第百八十五条に規定する株式無償割当て

四 当該株式会社の株式を引き受ける者の募集(第二百二条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)

五 当該株式会社の新株予約権を引き受ける者の募集(第二百四十一条第一項各号に掲げる事項を定めるものに限る。)

六 第二百七十七条に規定する新株予約権無償割当て

七 合併

八 吸収分割

九 吸収分割による他の会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部の承継

十 新設分割

十一 株式交換

十二 株式交換による他の株式会社の発行済株式全部の取得

十三 株式移転

十四 株式交付

2 種類株式発行会社は、ある種類の株式の内容として、前項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができる。

3 第一項の規定は、前項の規定による定款の定めがある種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会については、適用しない。ただし、第一項第一号に規定する定款の変更(単元株式数についてのものを除く。)を行う場合は、この限りでない。

4 ある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式について第二項の規定による定款の定めを設けようとするときは、当該種類の種類株主全員の同意を得なければならない。

種類株式発行会社が、会社法322条1項各号に掲げる行為をする場合において、ある種類株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該行為は、当該種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じません。会社が一定の行為を行うことによって損害を被るおそれのある種類株主を保護するため、そのような種類株主を構成員とする種類株主総会の承認を得ずに、会社が当該行為を行うことができないようにした規定です。

会社法322条1項各号に掲げる行為

会社法322条1項各号に掲げる行為は、定款の変更(第1号イ~ハの変更に限られます。)、株式数の増減に関する行為、組織再編行為の3つに大きく分類されます。これらの行為は、いずれも種類株主の利害に重大な影響を及ぼすものです。

特別支配株主による株式売渡請求の承認、株式の分割、株式無償割当て、株主割当て、新株予約権無償割当てといった、通常の株主総会を要せず、取締役会の決議により行うことができる行為についても、種類株主総会決議が必要とされている点には注意が必要です。

また、1号の括弧書きでは、ある種類株式に対する取得条項の設定・変更、譲渡制限の設定、全部取得条項の設定の際に、当該種類株式の種類株主について同号の適用がないことが定められていますが、会社が当該種類株式の種類株主の意向にかかわりなくこれらの行為を自由に行うことができることを認めたものではありません。これらの行為については特に重大な変更に該当するため、別途特別な規制が設けられています。具体的には、ある種類株式に対する取得条項の設定・変更については当該種類の株主全員の同意(法111条1項)、ある種類株式に対する譲渡制限の設定については当該種類株式の種類株主総会の特殊決議(法111条2項、324条3項)、ある種類株式に対する全部取得条項の設定については当該種類株式の種類株主総会の特別決議(法111条2項、324条2項)が必要とされています。また、これらの設定・変更が生じる種類株式以外の株式を保有する他の種類株主について、損害を及ぼすおそれがある場合には、322条1項に基づき、他の種類株主を構成員とする種類株主総会決議が必要となります。

損害を及ぼすおそれ

「損害を及ぼすおそれ」とは、ある種類の株主の割合的権利が抽象的な権利としてみて変更前よりも不利益になる場合を指し、具体的損害が生じることまでは不要と考えられています。

たとえば、定款を変更して「株式の種類の追加」を行う場面では、発行済みの種類株式よりも剰余金の配当や優先分配の内容において有利な内容又は同順位の内容の種類株式を追加する場合には、配当され得る剰余金の金額や分配され得る残余財産分配額が減少することになりますので、「損害を及ぼすおそれ」があり、発行済みの種類株式にかかる種類株主総会が必要となります。

他方で、発行済みの種類株式に拒否権が設定されている場合に、他の事項について拒否権が設定された種類株式を追加するときには、発行済みの種類株式の株主の影響力が事実上低下するとしても、外形的・客観的にそれが明確ではないため、「損害を及ぼすおそれ」があるとはいえないと考えられています。

また、定款を変更して「株式の内容の変更」を行う場面では、発行済みの種類株式の優先配当率を低くする代わりに非累積的であったものを累積的なものにするというように、有利な面も不利な面も伴う定款変更も、「損害を及ぼすおそれ」があると考えられています。

定款による種類株主総会決議の省略

種類株式発行会社は、ある種類株式の内容として、会社法322条1項の規定による種類株主総会の決議を要しない旨を定款に定めることができます(会社法322条2項)。定款にそのような定めのある種類株式については、322条1項各号の行為が当該株式を保有する種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときであっても、当該株式にかかる種類株主総会決議を省略することができます(同条3項)。もっとも、第1号の行為(株式の種類の追加等に関する定款変更)については、種類株主の利益を損なうおそれが高いことから、単元株式数についての変更を除いて、定款の定めによっても種類株主総会決議を省略することはできません(同条3項但書)。

また、322条1項各号に掲げられている行為の一部についてのみ種類株主総会決議の省略を定めることはできず、種類株主総会決議の省略を定める場合には一律に省略する旨を定める必要があります。一部の行為については引き続き種類株主総会決議を要する設計としたい場合には、種類株主総会決議の一律の省略を定めつつ、別途当該行為に関する拒否権(108条1項8号)を設定する方法が考えられます。

もっとも、定款の定めによって種類株主総会決議を省略すると、実際に会社が322条1項各号の行為を行う際に、当該種類株主が不利益を被る可能性があります。そこで、株式の併合・分割、株式無償割当て、単元株式についての定款変更、株主割当てによる株式の募集、株主割当による新株予約権の募集、新株予約権無償割当てをする場合で、ある種類株式を有する種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主に株式買取請求権が与えられています(116条1項3号)。また、組織再編行為については、簡易会社分割の場合等を除き、損害を及ぼすおそれの有無に関わらず、当該種類株主に株式買取請求権が与えられています(会社法785条、797条、806条)。

執筆弁護士 寺西章悟/田中諒子

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