業務執行検査役に関する新判断

株主は、会社の実質的所有者であり、取締役の選任及び業務執行の監督を通じて、企業価値の向上を図ることになりますが、適切に取締役の業務執行を監督するためには、会社の業務、財産に関する正確な情報が必要となります。 この点、会社法は、計算書類等閲覧謄写請求権(442条3項)、会計帳簿等閲覧謄写請求権(433条1項)を定め、株主が、計算書類や会計帳簿を閲覧することを通じて会社の情報を得ることを認めています。また、会社法は、「会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるとき」には、株主において、裁判所に対して業務執行検査役の選任の申立てをすることができ、裁判所が選任する業務執行検査役が、会社の業務及び財産の状況を調査する旨を定めています(358条2項)。

上記の「会社の業務の執行に関し、不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるとき」という要件の解釈に関して、会社財産に損害を及ぼすような違法不正な業務執行の事実を疎明することが必要かという論点があり、「少数株主の検査役選任請求権は、違法不正な業務執行によって会社財産に損害が及ぶことを防止する趣旨から認められているものであるから、会社の経理財産に直接に関係のない事項については行使することができないものと解するのを相当とする」と判示し、会社財産に損害を及ぼすような違法不正な業務執行の事実の疎明がなければ検査役の選任を行わないという考え方を示した仙台高裁昭和54年1月12日決定が、当該論点についてのリーディングケースとされてきました。

この度、仙台地裁において、会社財産には影響のない事柄であったとしても、取締役の行為によって直接損害を受け、会社法第429条による救済を求めようとしている株主が、検査役による調査を必要としている場面において、検査役選任請求権を行使できないとする理由はない旨を主張し、認容決定を頂きました(仙台地裁令和3年8月2日決定)。

事案としては、MBOにおける株価算定にあたり適切な情報が前提とされたか否かについて争いがあるという事案です。

検査役の検査範囲を広げる新しいリーディングケースになると思いますので嬉しく思っております。

先日、ある不祥事に関して設置された第三者委員会が、数十億円もの調査報酬を請求しているという事案を見かけました。第三者委員会の設置による不祥事調査のプラクティスに関しては、委員がどのように選ばれているかが不透明であり、真に公正中立な立場なのか疑問が生じる点で、問題があるのではないかと思っています。

この点、業務執行検査役であれば、裁判所が、実務に精通した利害関係のない弁護士の名簿の中から選任することになり、報酬の額も裁判所が定める適正報酬となり(358条3項)、裁判所の関与の下で公正中立な調査が実行されることが期待できますので、不祥事調査に関して、業務執行検査役の制度を活用するプラクティスが形成されるべきではないかと考えています。

執筆弁護士 寺西 章悟 / 吉田 光孝

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