株主総会決議の瑕疵

1 株主総会決議の瑕疵を争う方法

(1)3つの訴訟手続

株主総会決議に至るまでの手続、または決議の内容そのものに瑕疵がある場合に、会社法では、その決議の効力を争う訴訟手続として、瑕疵の内容・程度に応じて、株主総会決議取消訴訟、株主総会決議無効確認訴訟、株主総会決議不存在確認訴訟の3つが用意されています。

(2)株主総会決議取消訴訟

株主総会決議取消訴訟は、①株主総会の招集の手続または決議の方法が法令もしくは定款に違反するとき、②株主総会の決議の内容が定款に違反するとき、③株主総会の決議について特別の利害関係を有する株主が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたときを対象とする訴訟手続です。

後述する株主総会決議無効確認訴訟、株主総会決議不存在確認訴訟と比べると、軽微な瑕疵が対象となっており、決議の安定性(決議が無効となることで関係者に生じ得る不利益の度合いとのバランス)に配慮して、後述するとおり、訴訟を提起できる者(原告適格)や訴訟を提起できる期間(出訴期間)が限定される形になっています。

株主総会決議の瑕疵のうち、取消事由として認められ得るものは、たとえば以下のようなものです。

  • 招集手続の瑕疵
  • ・取締役会決議に基づかずに代表取締役が招集した場合
  • ・招集通知もれがある場合
  • ・招集通知期間に不足がある場合
  • ・招集通知や株主総会参考書類の記載に不備がある場合
  • ・会社が正当な理由なく株主名簿の名義書換に応じないで、その請求者である新しい株主に対する招集通知を欠いた場合
  • ・総会の1週間前(取締役会設置会社においては2週間前)からの計算書類等の備置を怠った場合
  • ・議決権行使にかかる基準日公告が必要な場合において、その公告を欠いた場合
  • 決議方法の瑕疵
  • ・役員の説明義務違反がある場合
  • ・議決権行使が妨害された場合
  • ・定足数が不足する状態で決議した場合
  • ・賛否の認定に誤りがあった場合
  • ・招集通知に記載されなかった事項について決議した場合
  • ・投票による意思を表明しない者の議決権を算入した場合
  • ・監査役、会計監査人の監査を経ないで計算書類の承認を決議した場合
  • ・総会の開会時刻を社会通念上から是認しうる程度を超え遅延させた場合
  • ・出席困難な時刻、場所に招集した場合

(3)株主総会決議無効確認訴訟

株主総会決議無効確認訴訟は、株主総会の決議の内容が法令に違反するときを対象とする訴訟手続です。株主総会決議取消訴訟と異なり、原告適格や出訴期間について、会社法上の制限はありません。

株主総会決議の瑕疵のうち、無効事由として認められ得るものは、たとえば以下のようなものです。

  • ・株主平等原則に違反する決議(たとえば、株主間に不平等の結果を生ぜし得る株式消却の決議や、議決権及び剰余金の配当に関して一部の株主を不利に取扱う規定を設ける定款変更の決議)を行った場合
  • ・欠格事由に該当する取締役を選任する決議を行った場合
  • ・悪意または重過失で任務を怠った取締役の責任を免除する決議を行った場合
  • ・違法な内容(たとえば、蛸配当をなすための虚偽利益の計上や重要事項についての虚偽記載もしくは記載欠缺)の計算書類を承認する決議を行った場合

(4)株主総会決議不存在確認訴訟

株主総会決議不存在確認訴訟は、株主総会の決議が存在しないときを対象とする訴訟手続です。物理的に決議が存在しない場合に加えて、瑕疵が著しいために決議が存在したと法的に評価できないと判断される場合も、決議の不存在に該当すると考えられています。

株主総会決議不存在確認訴訟も、株主総会決議無効確認訴訟と同様に、原告適格や出訴期間について、会社法上の制限はありません。

株主総会決議の瑕疵のうち、不存在事由として認められ得るものは、たとえば以下のようなものです。

  • ・株主の数として3分の2、株式の数として4割に対して招集通知を欠いた状態で決議がなされた場合
  • ・招集権限のない者が招集した場合(たとえば、取締役の選任決議が不存在の場合に、その者を構成員とする取締役会の決議で選任された代表取締役が株主総会を招集した場合)
  • ・議長ではない者の下で採決が行われた場合

2 株主総会決議取消訴訟の原告適格

株主総会決議取消訴訟を提起し、原告となり得るのは、株主、取締役、清算人、監査役設置会社の監査役、指名委員会等設置会社の執行役(決議の取消しによってこれらの地位を取り戻す者も含みます。)に限定されています。

問題となる決議の際には株主ではなかったけれど決議後に株式を譲り受けて株主となった者や、問題となる決議によって自己の議決権等の権利を侵害されたのではない株主も、原告となり得ます。

3 株主総会決議取消訴訟の出訴期間

株主総会決議取消訴訟は、株主総会決議の日から3ヶ月以内に提起される必要があります。前述の通り、決議が無効となることで関係者に生じ得る不利益の度合いとのバランスに配慮し、決議の効力を早期に確定させるためです。

会社法が3ヶ月の出訴期間を設けた趣旨を貫徹するため、株主総会決議取消訴訟そのものが出訴期間内に提起されていたとしても、3ヶ月の出訴期間が経過した後に、その訴訟の中で新たな取消事由を追加で主張することも許されないとされております(最判昭和51・12・24民集30巻11号1076頁)。そのため、提訴にあたっては、取消事由をどのように主張すべきかを慎重に検討する必要があります。

4 まとめ

株主総会決議に至るまでの手続や決議の内容に疑義が生じた場合には、それが株主総会の瑕疵にあたるのか、あたるとして3つの訴訟手続のうちどれが適切かを検討する必要があります。また、検討の際には、株主総会決議取消訴訟の出訴期間が株主総会決議の日から3ヶ月と短いことを念頭に置く必要があります。

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